2.史上初の色物文具とは?




 唐突だが、「史上初の色物文具とはなにか?」と問うてみたい。
 もちろん、「ジュラ紀末の地層から発見された【KIT POPの化石】」とかいった類のネタに非ず。史上初の色物文具とは、誰もが知っているあの【消しゴムつき鉛筆】である、と私は考えている。鉛筆のお尻にチンケなゴム塊をくっつけた、お馴染みのヤツだ。
 【消しゴムつき鉛筆】は、1858年、アメリカはフィラデルフィアの画家ハイマン・L・リップマンなる人物が、スケッチ中に「鉛筆と消しゴム、バラバラに置いとくとイザ使う時にどっちかが無くなったりして不便だシー。コイツらくっつけちゃったら、ほら超ベンリー。っていうか、ベンリ系?」みたいなことを言いつつ作ったものとされている。彼が作ったプロトタイプは、まさに普通の鉛筆の軸後端にゴム塊をニカワでくっつけただけのものだったが、今もそれとほとんど変わらぬ形態で販売されている超ロングセラー商品である。結局リップマンはこのロイヤリティで二億円近く儲けたようだ。
 …という話を聞いた私(当時小学生)は、その瞬間、大空に向かって叫んだ。
「おいおいリップマンお前マジでこれが超ベンリーとか思ったワケ? 正気か?」と。周辺地域では神に愛された少年・天才神童として畏れられていた私の咆吼は、七日七晩も周囲に轟き続け、天は裂け川は赤く染まった、と古文書には記されている。住民は私の怒りを鎮めるため、当地にたまたま滞在していただけの無関係なアメリカ人画家を捕らえて殺し、その心臓を祭壇に捧げて祈ったそうだ。まったくもって、これが本当なら国際問題である。

 馬鹿は放っておいて話を進める。我々の生まれる遙か前から存在したモノだけに、何の疑問も持たれずに日常生活に溶け込んでしまっているこの【消しゴムつき鉛筆】。私が吠えるまでもなく、冷静に考えれば非常に珍妙な存在なのだ。
 まず鉛筆部分だが、これは問題ない。単に普通の鉛筆だ。書き味も匂いも手触りも通常の鉛筆と何ら変わりはない。とすれば、残るは当然の事ながら、コイツのキモである消しゴム部分。これだ。
 この消しゴム、正味の話、やたらと消しにくい。私個人で言えば、この消しゴムを使って満足に修正該当個所を消せた例しがない。修正個所に対して消しゴムの角を当てゴシゴシと往復運動で擦るわけだが、まずその擦る力加減が難しい。弱すぎては消せないし、かといって強すぎたら接合部分からゴムが割れてコロリと取れてしまう。もしかしたら通常の消しゴムと素材が違うのかも? と(株)トンボ鉛筆に問い合わせてみたが、得られた回答は「通常のラバー消しゴムと同じ素材です。
(トンボ鉛筆お客様相談所)」というものであった。
 うーむむむ。では何が問題なのか。素材でなければ消しゴムのサイズか? と考えたところで、ハタと思い出す物があった。電動消しゴムである。ご存知の方もあろうが、あの消しゴムつき鉛筆の消しゴムとほぼ同サイズのものがモーターの力で紙面と平行方向に回転して、修正個所を消すというアレだ。アレは非常に良く消える。消しゴムが小さく微細な箇所でも周囲に影響を与えず消せるので、図面を引くときなどに使われることも多い。あれはモーターによって強力に回転しているにも関わらず、消しゴムは割れない。
 なるほど、見えた。消しゴムつき鉛筆と電動消しゴムの差は、往復運動と回転運動だ。早速、消しゴムつき鉛筆を錐のように持ち、回転させて使用してみた。なるほど、これなら消える。ゴムもよほど気合いを入れて回転させない限りは割れない。が、疲れる。たかだか1文字を修正するために、少し息が荒くなる程度は疲れる。これが修正個所が数行に渡るとすると、もう間違いなく汗だくである。牛丼の汁だくなら良いが汗だくは誰だって嫌だ。しかもそれが、たかが消しゴムつき鉛筆によってもたらされたものだとすると、誰だって叫びたくなるのではないか。
「おいおいリップマンお前マジでこれが超ベンリーとか思ったワケ? 正気か?」と。

 やはり我々にとって消しゴムつき鉛筆はゴシゴシと前後させて擦るしかなく、そしてゴムはコロリと割れるのである。色物文具だから、それは仕方のないことなのだ。